冷間圧造金型(冷間鍛造金型)設計の流れについて
圧造製品形状の検討
最終完成図面に適した圧造形状や狙い値を決定をします。メッキ、切削、ローリングなどの後加工があればそちらも考慮して決定する必要があります。
工程レイアウトの検討
決定した圧造形状から材料径、材料被膜や加工機械、加工油などの選定を行います。安定した量産化を目指すうえでとても重要な工程となりますので、成形メーカーと金型メーカーとでお互いの知見を出し合いながら最適解を目指してください。
チェックすべき重要なポイントがたくさんありますので下記に列挙します。
- 切断長さは機械スペックを満たしているか?
- 切断径は機械スペックを満たしているか?
- 各工程での圧造力は機械スペックを満たしているか?
- 各工程での加工率(絞り率や穴あけ率など)は適正範囲内か?
- 各工程間での搬送に問題はないか?
- DKO量(ダイス側KO量)は機械スペックを満たしているか?
- PKO量(パンチ側のKO量)は機械スペックを満たしているか?
- 各工程間のクリアランスは適切か?(前工程の負荷によっては打ち太りで次工程に入らないなってことも…)
- スライド機構を用いる場合はダイスやパンチのポケット内に入りきるか?
- 各工程のボリューム(体積)はあっているか?
- 各工程の負荷に偏りが可能な限り抑えられているか?
- 打ち伸び、打ち太り、製品ダレは考慮されているか?
- などなど
多数のチェックすべき項目が存在しますので慎重に協議を進めて頂ければと思います。
各工程組図の作成
工程レイアウトを元に各工程の組図を作成します。この際にDKO量やPKO量が機械スペックを満たしているかの再チェックも忘れずに行いましょう。圧造機や鍛造機は同一機種でも仕様が違ったりする場合もあります。必ず使用する機械の工具配置図を使って設計をされる事を推奨します。
各工程組図作成で注意すべきポイントは
- 組図での設定がDKO量やPKO量にあっているか?
- スプリングを使用する場合はタワミ量が設計対して適切か?
の2点が重要だと考えています。
大雑把な表現となりますが大事なのは全体のバランスです。
そのバランスの認識は各社の文化やノウハウで違いがありますので、
成形メーカー、金型メーカーとで知見を持ち合わせながら進めて行くのがよいのではと思います。
各金型図面の作成
各工程組図から各金型の個別図面作成に入ります。
主要な金型部品ごとにポイント説明します。
フィードローラーとピンチロール
材料矯正と材料送りに使うロールです。機械メーカー様の基本スペックに沿っての設計となります。V溝タイプと丸溝タイプがあります。近年はグリップフィードが増えていますのでそちらの場合はフィードローラーは必要としません。
クイルとナイフ
切断工具です。「切駒とカッター」「シャーダイスとシャープレート」「SDとSP」など様々な名前で呼ばれています。
材料径に合わせて内径寸法を設計していきます。材料径の大小によりますが、一般的には
クイル 材料径+0.05
ナイフ 材料径+0.08
くらいで設計されることが多いと思います。
切断部分の素材には超硬合金を使うのがセオリーです。
ダイス
ダイス設計には考慮すべき点が数多くありますが、特に重要な二つの要素があります。
1つ目は寸法設定です。
成形する条件次第で製品の打ち上がり寸法は径方向、長さ方向ともに大きく変化します。面圧の多くかかる製品では特に考慮が必要です。
CAE解析などでも分析出来ますが、もっとも大事なのは類似案件での現物での実績だと思います。
オペレーターさんや設計者さん、私共のような金型屋などにも相談しながら慎重に設定していきましょう。
2つ目は超硬材質の選定です。
超硬材質の選定によって上記の打ち上がり寸法も変化しますし、何よりも金型の耐久性にも大きく影響がでます。
ケース材をSKD61、成形部の素材に超硬合金を選定するのが一般的で、
超硬は必ず圧入され予圧がかけられた状態でなければいけません。
これは超硬合金の抗張力が脆弱な為、成形時に発生する広がる力により超硬合金が縦割れを起こしてしまうからです。
予圧が掛けられていなければ超硬合金はすぐに割れてしまいます。
たとえば竹輪の穴に少しだけ大きなものを押し込んだとしても割れたり避けたりはしないですが、
シガールにもし押し込んだとしたら一瞬でパリンと割れてしまいますよね。(変な説明ですいません)
シガール美味しいですよね〜^^
その超硬合金の選定の目安ですが下記の表のような考え方となります。
割れやすさ | 摩耗 | 打ち太り | |
硬い | ☓ | ○ | ○ |
柔らかい | ○ | ☓ | ☓ |
硬くても、柔らかくても一長一短があります。
それぞれの成形品に合わせた選定を見極める必要があります。
こちらも肝は大事なのは類似案件での現物での実績だと思います。
じっくり情報を集め、相談を重ねながら最適解を見つけて行きましょう!
パンチ
考慮すべきポイントは
- 材質
- 長さ寸法
といったところです。
材質は標準的にはSKH51が多く採用されます。
他にはSKH55,SKH57,HAP材,YXR材、ASP材、超硬合金などが採用されることが多いです。
長さ寸法は少し長めにしておくのがセオリーです。
カチンコチンのパンチも成形時にはたわみが発生しますので寸法設定どおりには成形出来ないことがほとんどです。
調整できるように少し長めにしておきましょう。
フィンガー
チャックとも呼ばれます。
材質は
S45Cの生材、
もしくは
S45Cで使用部位だけ高周波熱処理加えたものが
一般的です。SKD11などで熱処理したものを使うケースもありますが事例としては少ないかと思います。
これはフィンガーの材質を柔らかくしておいたほうがでトラブル時(フィンガーを挟んでしまった場合など)の歳に機械への損傷を抑えられるからです。
各工程を搬送するのはフィンガーです。
どんなに素晴らしい成形工程が組めても搬送出来なければ量産化は出来ません。
機械メーカーさんの標準図をベースに搬送しやすい、厚み、形状を目指して行きましょう!
まとめ
CAEが一般的になってきた昨今でも、
圧造や鍛造の設計はまだまだ「やってみないと分からない」部分が多く残されています。
今後優れた設計を行っていく上で重要となるのは大きく2つあると考えています。
1つ目は
・CAE解析結果を適切に判断できること
2つ目は
・様々な事例を経験していたり、経験している人との良いリレーションが出来てること
だと思います。
どちらも机上だけでは乗り越えられません。
デジタルが進化すればするほど最後はアナログの人の繋がりが大事になるのではないでしょうか。
様々な技術者と交流しよりものづくりの深度を深めて行きましょう。
そうすればもっともっとものづくりが楽しくなりますね^^
では今回はこのあたりで失礼しますm(_ _)m