

代表取締役社長 中村稔
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目次
レアアース(希土類)とは
レアアースの定義と17種類の元素
レアアース(希土類)とは、ランタノイド15元素(原子番号57のランタン(La)から71のルテチウム(Lu))に、スカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を加えた合計17種類の元素を指します。
- “レア”と呼ばれる理由
「希少」という意味を含む「レアアース」という名前ですが、実は金などよりも地殻中の量自体は多い場合もあります。しかし、レアアースがまとまった量で産出する場所が限られていること、そして化学的性質が似ているため分離精製が難しいことから「希少」とされてきました。 - 鉱床の分散と環境規制
採掘可能な鉱床が中国やオーストラリアなど一部の地域に偏在しているうえ、採掘や精製のプロセスでは多くの薬品やエネルギーが必要となり、廃水などの環境問題が起きやすいです。そのため、生産国も限られ、国際的な需給が不安定になりやすいことが特徴です。
なぜ「レア(希少)」と呼ばれるのか
- 分離と精製の難しさ
レアアース元素は、化学的・物理的性質が互いに非常に似ています。たとえば、ランタンやセリウム、プラセオジム、ネオジムなどは、同じ鉱石中に含まれている場合が多く、それらを単一元素として高純度で取り出すには、複数の化学処理工程が必要です。 - 経済的に採算の合う鉱床が少ない
地球上に平均的に存在する量がそれほど少ないわけではないものの、実際に掘削・精錬して利益を得られるだけの濃度や規模を持つ鉱床が世界的に限られているのが実情です。
こうした理由からレアアースは「レア(希少)」と呼ばれ、世界各国がその供給確保をめぐって戦略を練える重要資源となっています。
レアアースの用途と重要性
ハイテク産業に欠かせない存在
私たちの身近にあるスマートフォン、パソコン、テレビなどの電子機器から、自動車の排ガス触媒やカメラのレンズ、さらにはLED照明や光通信のインフラなど、多様な分野でレアアースは活躍しています。
- 強力な磁石への利用
ネオジム(Nd)を主成分とするネオジム磁石は、同じ体積の従来磁石よりもはるかに強力な磁力を発揮します。そのため、デジタル機器の小型化やモーターの軽量・高効率化が可能となり、スマホや電動アシスト自転車、ハードディスク駆動装置などで重宝されています。 - 光学用途・発色材
蛍光灯やLED、テレビやスマホのディスプレイに使われる蛍光体にもレアアースが使われています。例えば、ユウロピウム(Eu)の赤色発光特性、テルビウム(Tb)の緑色発光特性は高色純度を実現するうえで重要です。 - 自動車・排ガス触媒
セリウム(Ce)などは、自動車の排ガス中の有害物質を浄化する触媒に用いられ、大気汚染対策にも一役買っています。
経済安全保障とレアアース
- 戦略物資としての重要性
軍事技術や航空宇宙分野でもレアアースが欠かせません。たとえば戦闘機のジェットエンジンやミサイル、船舶のソナー装置など、微妙な性能調整にレアアース合金が利用されることがあります。 - クリーンエネルギー分野での存在感
風力発電の大型タービンや電気自動車(EV)の駆動モーターに利用される高性能磁石にはディスプロシウム(Dy)やネオジムが必要です。2050年に向けて脱炭素社会を目指す国際的な流れの中で、レアアースの需要拡大が予想されており、その供給リスクがさらに注目されています。
このように、レアアースは先端技術の根幹を支える要素材料であり、経済や安全保障の観点からも重要度が高まっています。
レアアースの主な種類と特徴
レアアースは、その原子量や化学的特徴から大きく**「軽希土類(LREE)」と「重希土類(HREE)」**に分けられることが多いです。用途や産出量に違いがあり、技術的にも異なる重要性を持っています。
軽希土類(LREE)
- ランタン(La)
カメラレンズや顕微鏡の高品質ガラスに添加して屈折率や色収差をコントロールするのに使われます。また、ニッケル水素電池(Ni-MH電池)の電極にも利用され、トヨタのハイブリッドカー(プリウスなど)でも一時期注目を集めました。 - セリウム(Ce)
自動車の排ガス浄化触媒として、またガラスの研磨剤としても大量に使われています。研磨剤としては高い研磨力と安定した粒子構造を持ち、スマートフォンや液晶パネルの製造現場でも欠かせません。 - ネオジム(Nd)
「最強磁石」として知られるネオジム磁石(Nd-Fe-B磁石)の主成分。コンピュータのハードディスク駆動装置やスピーカー、EVモーターなど幅広く使われ、ここ数年は特にEV普及に伴い需要が増しています。 - プラセオジム(Pr)
ネオジム磁石の組成を微調整し、磁力特性を改善する助けとなります。また、特殊なガラスの着色材(黄緑色など)としても利用されています。
重希土類(HREE)
- ディスプロシウム(Dy)
高温環境でも磁力が低下しにくい特性を与えるため、EVや産業用ロボットのモーター、風力発電タービンなど、高負荷・高温下でも安定した性能が求められる分野に使われます。 - テルビウム(Tb)
高性能磁石や蛍光体として使用。テレビやスマホのディスプレイでは、微妙な発色を調整するためにも重要であり、特に緑色発光の制御に欠かせません。 - エルビウム(Er)・ホルミウム(Ho)
エルビウムは光ファイバー増幅器に必要な元素であり、インターネット通信インフラに大きく貢献。ホルミウムはレーザー機器や核磁気共鳴装置など専門的な分野で利用されています。
レアアースが持つ共通の特徴
- 化学的性質の類似性
ランタノイド系列はイオン半径や電子配置が似ているため、分離には溶媒抽出やイオン交換など複雑な工程を要し、多大なコストや環境負荷が伴います。 - 添加するだけで性能を大幅に向上
金属合金や磁石、触媒などに微量添加することで、素材の特性が大きく向上する“魔法の材料”とも言われています。単体としての利用よりも、他の元素との合金や化合物として利用するケースが多いです。
世界のレアアース生産地と供給状況
中国が圧倒的シェアを占める背景
- 世界シェアの大半を占有
中国は、一時期は世界のレアアース生産量の8~9割を占めるといわれてきました。近年は他国の生産も拡大しているものの、いまだに5割以上を占めるとも推計されており、依然として最大の生産国です。 - 豊富な鉱床と精製能力
中国の内モンゴル自治区の包頭(バオトウ)や南部の江西省などには大規模なレアアース鉱床があります。また、採掘だけでなく精製・分離技術の蓄積と産業集積が進んでおり、サプライチェーン全体を自国内で完結させる能力を持っています。 - 環境コストや法規制の違い
レアアースの精錬には化学薬品や大量の水、エネルギーが必要で、環境負荷が大きくなりがちです。かつての中国では規制が緩かったため、安価に大量生産できたことがシェア拡大の大きな要因でした。ただし、近年は環境規制の強化や違法採掘の取り締まりも進みつつあります。
その他の主要生産国と供給源
- アメリカ
過去には世界最大のレアアース生産国でしたが、価格競争の激化や環境規制の強化により、一時は大幅に生産量が減少しました。近年は米国内の鉱山(例:カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山)を再稼働させ、国家の重要資源として再び生産を拡大しています。ただし、精製工程の一部を中国に依存するケースもあり、サプライチェーン上の課題が残ります。 - オーストラリア
豊富な鉱物資源を背景に、レアアースの生産と輸出を強化している国の一つです。特にリネット(Lynas)社が西オーストラリアで採掘し、マレーシアで精製を行う体制が整っており、中国以外の供給源として注目を集めています。 - ロシア、ミャンマー、その他
ロシアにも潜在的な埋蔵量があり、軍事・宇宙関連の技術開発と合わせて生産拡大に力を入れています。ミャンマーは近年、小規模ながらレアアースの輸出量が増えてきました。しかし、政治情勢やインフラ不足などのリスクもあり、安定的な生産体制といえるかは未知数です。
サプライチェーンの脆弱性
- 一極集中によるリスク
レアアースの生産や精製能力が特定の国(特に中国)に集中しているため、地政学的リスクや輸出規制が行われた場合、世界的に供給不足や価格急騰が起きる可能性があります。 - 精製能力の重要性
「どこで採掘するか」だけでなく、「誰が高純度に精製できるか」も極めて重要です。鉱石を採れても、精製工程の投資や技術が追いつかないと商業ベースに乗せることは困難です。 - 環境規制と生産コスト
採掘・精製工程での環境負荷や放射性廃棄物処理への対策は、先進国では厳格化する傾向にあり、生産コストが高騰しやすいという課題があります。
レアアースの需要増加と背景
EV(電気自動車)の普及
- 高性能モーターに不可欠な磁石
EVやハイブリッド車のモーターには、高い磁力と軽量化を両立するネオジム磁石が重要です。さらに、ディスプロシウム(Dy)を添加することで高温下でも磁力が低下しにくくなるため、高い耐久性や効率性を求めるEVモーターには必須といわれています。 - 将来需要の拡大予測
各国のCO2削減目標や排ガス規制により、2030年~2040年にかけてEVの普及率が急上昇すると予測されます。その結果、レアアースの需要は年々増加していくと考えられます。
再生可能エネルギーの普及
- 風力発電タービン
大型の風車(タービン)にも、高出力を生み出すために高性能磁石が搭載されます。陸上風力だけでなく、洋上風力にも導入が進み、今後のクリーンエネルギー拡大のカギを握るとされています。 - その他の蓄電関連技術
大規模蓄電池や水素エネルギーの分野などでも、高性能触媒としてレアアースを活用する研究が進行中です。
デジタル化・IoTの進展
- 膨大な電子機器とサーバーインフラ
スマートフォンやスマートホームデバイス、5G/6G通信インフラなど、デジタル化の急速な進行はレアアース需要を押し上げています。 - ロボット・自動化分野
工場の自動化やサービスロボットの普及も進み、高性能モーターやセンサーに必要なレアアース合金がより多く求められています。
価格動向と需給バランス
- 投機的な値動き
過去には、中国の輸出規制や地政学リスクが要因となり、一部レアアースの価格が数倍から十数倍に急騰した事例もあります。 - 需給ギャップの懸念
EVや再生可能エネルギー市場の成長が予想以上に加速すると、特定元素(ネオジム、ディスプロシウムなど)の供給が追いつかず、価格高騰や入手難が起こる可能性があります。
最新トレンド・動向
各国の「脱中国依存」に向けた政策
- アメリカ
バイデン政権下では、レアアースを含む「重要鉱物」の国内生産や同盟国との共同開発を支援する政策を打ち出しています。国防権限法(NDAA)などでも、レアアースの米国内サプライチェーンを強化する条項が盛り込まれています。 - 欧州連合(EU)
《欧州重要原材料法(European Critical Raw Materials Act)》によって、EU域内での資源開発やリサイクル促進に大きな力を入れ始めました。特にグリーンディール政策との連動で、風力・太陽光発電の拡大に必要なレアアースの安定供給を確保する狙いがあります。 - 日本
中国依存リスクを低減するため、経済産業省やJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が、海底レアアース泥の試験掘削や他国との共同資源開発に資金支援を行っています。また、使用済みの家電やハイブリッド車などからの都市鉱山リサイクル技術の開発も進行中です。
日本の海底資源開発とリサイクル推進
- 海底レアアース泥の可能性
日本近海の排他的経済水域(EEZ)や太平洋の海底には、レアアースを含む「レアアース泥」が堆積している可能性があると言われています。特に南鳥島(東京・小笠原諸島東方)近海での探査が期待されており、将来的な国内自給の一助となるか注目されています。 - 都市鉱山の有効活用
廃家電や廃自動車などに含まれる高性能磁石からレアアースを回収する技術が確立されつつあります。国内企業や研究機関が、効率的なリサイクル工程を開発・実用化することで、サプライチェーンの多角化に寄与しています。
リサイクル技術と代替素材の開発
- レアアースフリー素材の研究
高性能磁石分野を中心に、レアアースを使わずに同等の性能を発揮する磁石材料(フェライト磁石や合金)の研究が行われています。まだ実用化には壁が多いものの、技術革新により将来的にレアアース依存度が低下する可能性があります。 - リサイクル・再利用ビジネスの拡大
各国の環境規制強化や資源循環型社会の推進を受けて、レアアースリサイクルやスクラップ回収がビジネスとして成長しつつあります。特に欧州や日本を中心に、多国籍企業が共同で効率的なリサイクルシステムを構築する動きがあります。
レアアースと環境問題
採掘・精錬工程に伴う環境負荷
- 廃水や放射性物質の排出リスク
レアアースを含む鉱石には、トリウムやウランなどの放射性元素が微量に含まれている場合があります。採掘や精錬の過程でこれらが溶出し、廃水や廃棄物として環境に流出する懸念が指摘されています。 - 大規模な土壌破壊
露天掘りや削岩によって森林や草地が失われるほか、処理後の廃石(テーリング)が大量に発生し、長期的な管理を要します。特に適切な処分施設や規制が整っていない地域では、大きな公害を引き起こす可能性があります。
中国における公害事例
- 違法採掘・乱採掘の問題
中国ではかつてレアアースの乱採が横行し、違法に採掘された鉱石を安価に輸出する事例が多く報告されました。こうした活動は環境破壊や地域住民の健康被害を深刻化させました。 - 最近の取締り強化
中国政府はレアアースの国家戦略化に伴い、違法採掘の取り締まりと環境規制の強化を進めています。ただし、取り締まりの範囲外での非正規生産も根絶されておらず、今後も継続的な監視と規制が必要です。
サステナブルな生産体制の確立
- 環境に配慮した採掘技術
先進国や一部の企業では、地下水や土壌への影響を最小限に抑える採掘方法が研究されています。具体的には、不要な薬品の使用を減らし、循環利用や排水の再処理を徹底する取り組みなどが挙げられます。 - 企業のESG対応
投資家や消費者の環境意識が高まるなかで、レアアースの生産企業にもESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した事業運営が求められています。環境負荷の少ない製造プロセスや地域社会への貢献は、今後ますます評価のポイントとなるでしょう。
レアアースの今後の課題と展望
価格変動リスクと需要の安定化
- 政治的リスクの影響
レアアースは地政学リスクや各国の貿易摩擦の影響を受けやすく、輸出制限措置などがとられると短期間で価格が暴騰する可能性があります。製造業者の安定的な調達が難しくなることが懸念されています。 - 需給のアンバランス
今後、EVや再生可能エネルギー関連の需要が急増すると特定元素(ネオジム、ディスプロシウムなど)に偏った需給ギャップが生じる恐れがあります。価格の乱高下はサプライチェーン全体に影響を与え、ユーザー側も製品コストを転嫁せざるを得なくなるケースがあります。
リサイクル市場の拡大
- 都市鉱山の潜在力
既存の電子機器、家電、自動車などに含まれるレアアースを回収・再資源化する技術が注目を集めています。大都市圏には膨大な廃棄物があり、これらを「都市鉱山」と捉えることで、安定的な国産資源として期待が高まっています。 - 効率的な回収技術の開発
レアアース磁石を搭載したモーターや廃家電からの取り出しは、金属スクラップなどに比べると複雑です。溶融分離や化学溶媒抽出など、コストや環境負荷を抑えながら純度の高いレアアースを取り出す技術が各国の研究機関や企業で進められています。
持続的なグローバル協力体制の構築
- 多国間協力の重要性
レアアースは先端技術や国防にも直結しており、世界各国が排他的に確保を目指すと需給バランスがかえって不安定になる恐れがあります。産出国と需要国の双方が透明性の高い取引ルールや環境対策を共有する協力体制が求められています。 - サプライチェーンの多角化
アメリカや日本、オーストラリア、EUなどが連携しながら、中国以外の鉱山開発や共同精製施設の整備を進める動きが本格化しています。これは安定供給の確立だけでなく、技術・ノウハウの共有や環境保全の国際基準づくりにも寄与すると期待されています。
まとめ
-
レアアースは先端技術を支える基盤的資源
スマートフォンや電気自動車、風力発電など、現代の暮らしや産業のあらゆる場面で不可欠な素材となっています。さらに、軍事・宇宙開発でも使われるため、経済安全保障上も戦略的に非常に重要です。 -
中国が依然として世界の主要供給源
大規模な鉱床と精製技術の蓄積により、世界のレアアース市場を握っています。各国はサプライチェーンの多角化を図る一方、中国自身も環境対策や高付加価値製品への転換を図っています。 -
需要拡大に対応するためのリサイクルと代替技術
EVなどの普及で需要がさらに拡大する見通しのなか、レアアース資源の再利用(都市鉱山化)やレアアースを使わない素材の開発が一層重要になっています。 -
環境への配慮と国際協調が不可欠
採掘・精錬の過程で生じる公害や放射性廃棄物の問題は深刻です。サステナブルな生産体制を整えるためには、国際的なルールづくりと技術共有が求められます。 -
今後の展望
レアアースの安定供給は、グリーンエネルギーとデジタル社会を支えるキーファクターです。世界的な脱炭素化やIoTの進展を踏まえれば、レアアース需要は引き続き拡大し、同時に環境に配慮した生産・リサイクル技術の開発が急務となるでしょう。