多くの人が想像する鍛造CAEの理想の姿は、実際の鍛造と同じようにコンピューターの中で作業して、加工中に生じる現象を完全に再現することだと思います。
しかし、実際のシミュレータはコンピューターの能力・ソフトの完成度・入力データの整備などの点で理想からはほど遠く、また力学の知識なしではシミュレータをうまく利用できないことが分かっています。
シミュレータの役割を技術者の仕事を補助することだとすると、実用に十分役立てることは十分可能です。
ここでは、鍛造シミュレータの基礎知識とシミュレータを使いこなすために必要な知識などについて説明します。
1・鍛造力学シミュレータの概要
(1)解析方法とシミュレーション方法
物体の内部の温度・速度・応力・ひずみといった連続的に変化する物理量の分布は多くの場合、偏微分方程式によって記述されます。
毎日の天気予報のもとになる空気の流れ・鍛造における材料流動・温度変化の基礎式も偏微分方程式で表されています。
偏微分方程式は特別な場合にしか解が得られないため、コンピュータが出てくるまでは偏微分方程式を各種の仮定の下で単純化して常微分方程式に変換して、その解を数式の形(解析解)で出していました。
こうした解析的な方法では大幅な単純化が可能な問題(厚さの小さい板状素材の平面工具による圧縮など)にしか適用できません。
また局部的な工具面圧のような詳細な情報は得られません。
コンピュータは足し算・掛け算などの単純計算を猛スピードで繰り返すことができ、連立方程式を解くのは簡単にできますが、微分方程式のアナログ計算を解くのは得意ではないです。
そこで偏微分方程式を連立一次方程式に変換することによって高精度で解く方法が開発されました。
有限要素法・差分法はコンピュータの特性合わせて開発された数値計算の方法であり、コンピュータの発達とともに進歩してきました。
これらの方法に基づくコンピュータシミュレーションでは、形状などの制約が小さく、物理量の詳細な分布が求められます。
有限要素法は物体を小さい領域である要素に分割し、要素の角点である節点の速度を未知数とし各節点で1次方程式を作成し、全節点についての連立1次方程式を解いて、未知数である節点速度を求めます。
要素の応力などは得られた節点速度から計算されます。
ここでは、偏微分方程式を連立1次方程式に変換するために変分法などの理論が必要になり、この部分が難しいため理論は分かりにくくなっています。
差分法は空間を同じ形の立方体に分割し、物体やエネルギーなどが立方体に流れ込むことを考慮して差分基礎式を作り加減乗除によって計算します。
偏微分方程式をテイラー展開の使用によって差分形の基礎式にしていますが、比較的簡単な理論で偏微分式を差分式に変換できます。
差分法の要素は材料の変形によっても形を変えず、材料が流れて一点の所属する要素が変わったり、要素内の位置が変わったりすることになります。
差分法が流体の流れの計算に多く用いられるのに対し、有限要素法は機械設計で用いられる個体の応力計算に多く使われています。
いずれの方法でも計算は可能ですが、塑性変形では材料の形状変化やひずみを追跡する必要があり、それに適した有限要素法の使用が多いです。
必要とする情報・形状の複雑性・計算精度と計算時間のかねあいなどによって用いるソフトウェアの差を生じます。
鍛造のシミュレーションが可能なソフトウェアの大部分は有限要素法を用いていますが、体積要素法と呼ばれる方法は差分法と同じような手法です。
(2)変形シミュレーション方法とソフトウェア
①弾塑性と剛塑性
有限要素法は1950年代に弾性変形の解析法として始まり、1960年代も後半に微小変形弾塑性変形に発展し、1970年代初期には大変形塑性問題のシミュレーションの研究が始まりました。
その結果、微小変形弾塑性FEMで大きな塑性変形を計算するととても長い計算時間が掛かってしまうことが分かりました。
しかも、応力の誤差が蓄積することも分かりました。この問題を解決するために1970年代に大変形弾塑性FEMと剛塑性FEMが開発され、1980年代に実用化されました。
単純化して言うと、弾塑性FEMは弾性変形と塑性変形の両方を考慮した方法であり、剛塑性FEMは弾性変形を無視して解析する方法です。
弾性FEMでは1回の行列計算で応力分布などの計算が可能ですが、塑性変形では形状変化を求める必要があります。
塑性変形の増分型解析をする場合、時間増分(ステップ)Δtでの変化を考えて、形状変化を追跡していきます。
増分型の解析では節点の速度を未知数として方程式を作成し、得られた節点速度からひずみ速度・応力速度などを計算します。
1ステップの最初の状態での節点iのX座標をXi、求められたX方向節点速度をUiとするとき、時間増分Δiの最後での座標位置Xiが以下のように求められます。
式1 Xi=Xi+UiΔt
弾塑性FEMでは応力についてもひずみ速度から応力速度を求めます。
式2 σij=σij+σ(・)ijΔtb
このように時間増分後の値を計算します。
時間増分中に速度が一定でないのでΔtが大きいと誤差が累積します。
このため弾塑性有限要素法は非常に小さい時間増分を使用します。
大変形弾塑性FEMは大変形理論を用いて厳密な弾塑性変形の計算が可能ですが、計算時間は長くなります。
汎用ソフト(NASTRAN・MARC・ABAQUS・ADINA・NlKEなど)はこの方法を採用しています。
一方で、剛塑性FEMでは時間増分後の応力σijが計算された節点速度から直接求め、応力の誤差が累積することはないです。
剛塑性有限要素法は比較的大きい時間増分の使用が可能であり、応力の誤差が累積せずに解が安定しているためステップの時間間隔を大きくとれ、全計算時間が短く実用的です。
しかし、弾性無視の近似により残留応力などの弾性特性はそのままでは求められません。
DE‐FORM・RIPLSなどの鍛造シミュレータでは剛塑性FEMを用いています。(DEFORMの場合には、弾塑性FEMも使用可能です)
②リメッシング
材料に固定した(ラグランジュ)要素を用いて大変形の計算をすると、材料の変形とともに要素形状がいびつになり、計算が継続できなくなります。
このため材料内部を新しい要素で分割するリメッシングという作業が必要になります。
面倒なリメッシングを避けるため、空間に固定した(オイラー)要素を用いる方法も提案されています。
この場合には各計算ステップでは要素の変形を生じますが、次のステップに移る前に元の空間固定要素を用いたリメッシングがされると言えます。
FEM以外では、体積要素法(コントロールドボリューム法)を用いた鍛造シミュレータもあります。
この場合には差分法と同じオイラー要素を用い、空間要素の中で材料が占める割合で材料形状を表現します。
この方式は各ステップで簡単な計算方法(陽解法)を用い、膨大なステップ数を用いて誤差の発散を防いでいます。
③温度計算
塑性変形による熱発生および工具への熱移動により温度変化を生じますが、熱履歴によって材質は特に大きな影響を受けます。
また、変形状態によって発熱状態は左右されますが、温度や材質によって変形抵抗が変化するので、変形状態は温度分布の影響を受けます。
そこで、塑性変形のシミュレーションと温度のシミュレーションとを連成させて行う必要があります。
温度変化も有限要素法(ガラ―キン法など)を用いてシミュレーションができるので、変形解析と温度解析に同一要素分割を用い、変形解析と温度解析を交互に繰り返しながらシミュレーションがなされることが多いです。
2・シミュレーション作業の詳細
(1)物体と時間の分割
鍛造シミュレーションでは、物体またはそれが存在する空間を仮想的に小さい領域(要素)に分割して計算を進め、要素ごとに応力やひずみを求めます。
要素数を多くするほど計算精度が高くなりますが、計算量・計算時間が大幅に増えるので使用できる要素数は限界があります。
鍛造のように時間の経過とともに材料形状が次第に変わる場合、加工時間を分割して、ステップ毎に計算を行って変形状態を追跡します。
総計算時間は1ステップの計算時間とステップ数を掛け合わせたものになります。
内挿で得られた要素内部の値は正しい解とは少しの差があるため、要素が大きいと誤差が大きくなります。
節点が多いほど、つまり、要素が細かく多くなるほど計算精度は高くなります。
一方、連立方程式を解くための行列計算では、係数の個数が変数の個数(要素数にほぼ比例)の自乗に比例して増加し、要素増大により計算時間が大幅に長くなります。
コンピュータの計算速度が上がると要素を増やして精度の高い計算ができますが、そうなると、さらに要素を増やした計算が求められるという、いたちごっこが続きます。
伝段階で素材が回転対称を保っている変形を軸対称変形と呼びます。
軸対称変形では縦断面の半分だけを四角形などの要素2次元分割して解析を行います。
軸対称変形や平面変形以外の3次元形状では、素材全体を六面体などの立体要素に分割した3次元解析が必要です。
(2)入力デー
数値計算自体の精度は要素数を増加すると高くりますが、計算結果が実際の現象とどの程度合うかといった総合的な精度は、入力に用いられるデータによって大きく左右されます。
鍛造問題の場合には材料の変形抵抗データと摩擦のデータが特に重要になります。
変形抵抗は材料成分・金属組織・熱処理・前加工履歴などによって変わり、加工温度や速度などの加工条件によっても影響を受けます。
こうしたことを完全に取り入れたデータベースや計算式は存在しないため、何かしらの近似を行ってデータとしていますが、近似の精度を確認することは容易ではありません。
炭素鋼など使用頻度の高い材料の変形抵抗データはかなり以前から実験で得られており、それらを利用することができます。
しかし、異なった研究機関で同じ材料を同じ条件で実験するだけでもかなりの差があることが確認されており、過去の実測データでも必ずしも信頼できるとは限らないので注意が必要です。
特殊材料についてはデータが少なく、シミュレーションのために測定することが多くなります。
摩擦は潤滑剤の材料的な条件、素材と工具の表面状態・すべり量・すべり速度・局部温度などによって変化します。
実際の加工条件での材料および摩擦の完全なデータは文献を探しても見つかりません。
また、自分でデータを収集するには大変な労力が必要です。
摩擦データは変形抵抗データに比べてデータベースがほとんど整備されていないため、経験的に条件が近いと思われる摩擦データを用いるのが普通です。
通常、摩擦特性が計算結果に与える影響は変形抵抗特性の影響より顕著でないことが、問題によっては摩擦特性がとても重要なことがあるので注意が必要です。
(3)シミュレータで得られる情報
シミュレータでは変形途中や最終の素材形状や変形途中の流動速度・応力・相当塑性ひずみ・ひずみ速度の成分・温度などの分布を直接求めることができます。
それから計算できる静水圧応力・最大主応力・工具面圧・荷重なども含め、計算だけで得られる情報を1次情報と呼びます。
材料の破壊や鍛造製品の材質・工具の割れ・疲労寿命・工具摩耗などの2次情報は、材料特性などを考慮して1次情報から推定する必要があります。
応力は圧縮試験片に加えた力をその断面積で割った値です。
応力は引張りを正(+)とし、ひずみは伸びを正(+)とします。
複雑な変形では、一点の状態を9成分(独立成分は6個)で表現します。
しかし、各々の応力成分を見ても鍛造の状態を判断することはできません。
そこで、応力成分から計算される相当応力・最大主応力・静水圧応力・接触圧力などの量が鍛造解析に用いられます。
1次情報は以下のように用います。
①素材形状
素材が金型と同じ形状でないと、その部分が欠肉(充満不良)になっていることを示すので、実際の鍛造と同じく判断ができます。
②流動速度
変形途中の物体内部の流動速度を見ることにより、欠肉などの原因を推定できます。
一般的にバリ出し型鍛造では材料が各部にほぼ同時に充満することが重要です。
流動速度の分布を参考にして、早く充満する部分への流動抵抗を大きくすることにより、充満時期の差を小さくでき欠肉の防止に結びつけます。
③相当応力(有効応力・ミーゼス応力)
応力の各成分をミーゼスの降伏条件に代入した値であり、塑性変形中は変形抵抗と一致します。
塑性変形領域では相当応力は変形量の大きさに対応していますが、変形量の大きさは後で述べる相当ひずみの方が直接的な指標です。
金型の弾性シミュレーションでの相当応力は降伏にどの程度近いかを表し、相当応力が降伏応力に近いとその部分で塑性変形しやすくなっていることを表します。
④最大主応力
材料に引張応力が加わって割れを生じるときの判断を用います。
通常、変形抵抗Yの大きさと比σmax/Yで扱います。
均一変形の引張りではσmax/Y=1ですが、くびれの中央では1以上になり割れを促進します。
⑤静水圧応力
垂直応力の平均値で引張りを+とする平均応力に対し、圧縮を+とする圧力の符号を変えたものです。+の値が大きいほど破壊が進行します。
⑥接触圧力
接触圧力が0に近いと工具から材料が離れやすいことを示しています。
逆に非常に高い接触圧力(変形抵抗の2倍以上など)であれば摩擦応力が非常に大きくなり、工具摩擦の進展が懸念されます。
工具摩擦は接触圧力と滑り距離の積をパラメータとして考えることが多いです。
⑦相当塑性ひずみ
塑性変形の大小を表す量として用いられますが、これは圧縮試験の対数ひずみに相当する値です。
相当塑性ひずみが大きいことは変形量が大きいことを意味し、そこで破壊を生じたりその部分で材質変化を生じたりすることが考えられます。
逆に相当塑性ひずみが0に近いとデッドメタル部分であると考えられます。
⑧ひずみ速度
変形が生じている部分ではひずみ速度が大きいです。
非変形域や変形集中域などの推定に用います。
3・シミュレーション実務
(1)シミュレーションの手順
①設計情報の収集
鍛造の場合の設計とは鍛造品の設計・工程設計・金型設計であり、シミュレーションのためには、素材の材質・各工程別素材の形状・金型形状等の様々な設計の情報が必要になります。
②モデル化
シミュレーションの目的に合わせて実際の鍛造工程を単純化・数値化し適切なモデル化を行います。
モデル化は実際の状態を数字の形に変換する作業ですが、現実を完全に表すものではないので、必要な情報を見いだすことができるモデルが必要です。
モデル化のときに考慮する主な項目は、2次元モデルか3次元モデルか・素材および金型の温度を考慮するか否か・素材および金型の変形特性が弾性、剛塑性、弾塑性か・境界の速度、外力、摩擦、熱伝達などの境界条件の設定をどうするかなどです。
③データの準備および入力
モデル化に基づいて鍛造素材および金型の形状・物性値・位置・動きなどの必要なデータを入力します。
また、境界条件や計算をコントロールするための様々なパラメータを設定します。
この作業はプリプロセッサを用いて行います。
④計算の実施
作成されたデータを用いて計算を行い、計算結果を出力します。
⑤シミュレーション結果の可視化
ポストプロセッサまたは可視化ソフトを用いて、様々な情報をグラフィック形式で出力します。
⑥シミュレーション結果の分析
可視化されたシミュレーションの結果をシミュレーションの目的やモデル化の意図に基づいて分析を行います。
(2)シミュレーションの際の注意事項
①目的を明確に
原理をよく理解せずにシミュレーションを依頼し、依頼者の本当の意図をよく把握せずに計算を実行したために、役に立つ結果が得られなかった例も少なくありません。
効果的なシミュレーションを行うためには、何のためにシミュレーションを行うか・何が知りたいか・目的とする結果に影響を与える重要なパラメータは何か・どの程度の精度の情報必要なのかを明確にする必要があります。
②シミュレーションの過信はダメ
シミュレーションは、入力されたデータに基づいてプログラムのとおりに計算するだけなので、正しいデータを入力しなければ正しい結果は得られません。
100%正しいデータはほとんど手に入らないので、計算結果の裏付けのためにはある程度の実験データとの比較が必要になります。
したがって、目的やモデル化の意図のとおりのシミュレーションができているかを常に確認しなければなりません。
③モデリングは簡単に
素人は3次元計算で要素数を多くし、温度計算も工具弾性変形も入れた複雑なモデルを使おうとしますが、「可能な限り単純なモデリングにする」ことが大切です。
複雑なモデルにするほど計算時間が長くなり、重要なパラメータが何かを見失いやすくなります。
単純なモデリングは、計算時間の節約・結果解析での無駄な努力の回避・データ設定ミス等による問題の排除などにつながります。
④分析は徹底して
ひずみや応力分布が極端に集中してるところがないかを調べ、要素の大きさと分布、1ステップの成形量が適切であるかを検討します。
過去のデータや経験と比較し、計算結果が実際の現象と合っているかを調べ、入力データの信頼性を確認します。
得られた1次情報の物理的な意味を明確に理解して、総合的に分析・判断をします。
1次情報から鍛造欠陥などを予測できる場合もありますが、各種の1次情報を組み合わせて2次情報を総合的に推定することが多いです。
この分析力がシミュレーションのプロに最も必要な能力になります。
⑤キーパーソンの育成が成功の秘訣
鍛造シミュレーションを日常的に行うには、基本的なところを押さえておけばよく、高度な塑性力学や有限要素法の知識は絶対的な条件ではありません。
適用範囲を限定し、マニュアルを完備しておけば限定された目的のために生産現場などでもシミュレーションを使用することも可能です。
しかし、問題が出てきたときに対処できる人がいないと、そこで行き詰まってしまうことが多いです。
したがって、鍛造シミュレーションを本当に使いこなすにはシミュレーションと鍛造実務の両方に精通する人材を養成することが不可欠です。
4・役に立ったシミュレーション
(1)鍛造素材の流れと成形荷重の予測
ベベルギア鍛造の解析例では、材料の流れと解析で予測された材料流れ、そして成形荷重の計算結果がほぼ一致します。
このように鍛造工程設計の時点で設計者が、素材寸法・金型形状・工法等の様々な案を試して、そのうちの最良の案を選んだりシミュレーション結果を参考にして新たな工程を設計したりすることができます。
(2)材料流動解析による欠陥の予測と改善
巻き込み問題のある鍛造品欠陥は、製品形状はリング据込みの座屈限界を越えてしまいますが、巻き込み量が少ない場合その部分を切削で除去します。
しかし、内径部に巻き込み量が大きく、巻き込みの防止のために据込み比を下げると切削代が大きくなる問題が生じる場合、新たな工程を考え改善する必要があります。
(3)金型の摩耗問題対策
シミュレーションから金型の摩耗を判断することは、摩擦箇所を通過する材料流速・摩耗部の面圧力・潤滑状態・温度分布に着目します。
そろぞれがどのような相関関係を持つかをつかみ、摩耗量まで予測するには相当な実験とデータの裏付けが必要ですが、少なくとも一つ一つのパラメータの影響を検討することは可能です。
(4)材料割れ
冷間鍛造では材料の割れが生じやすいですが、当該部の静水圧応力が引張りの場合に割れが促進されます。
素材形状や金型を変えることにより割れ発生を防ぐことができます。
割れに対しては幾らかの割れ発生の理論式がありますが、それらの多くは変形中の応力を積分した形をしています。
シミュレーションの中には、この積分を行い材料の各部分の割れ発生危険度を表示できるものもあります。
(5)金型の割れ問題対策
ベベルギア精密鍛造金型のパンチピンの外径を変更することにより、割れ発生部位での最大主応力値が変化することが確認できます。
解析結果に基づき、割れ発生部での最大応力値を減少させることにより金型の寿命を向上させることができます。
(6)製品精度
鍛造品の制度をシミュレーションで予測する場合、鍛造時の金型の変形や鍛造品の温度分布をシミュレーションで予測し、金型の変形量と鍛造品の熱変形量を加えて打ち太りの予測が可能です。
5・材質シミュレーション
(1)材質シミュレーションの概要
塑性加工後の材質・性質の予測手法は、熱間圧延・制御圧延の分野で発展してきました。
TMCP(Thermo-Mechanical Control Process)技術に代表されるように、材質制御技術の積極的導入により、超微細粒鋼(スーパーメタル)の製造技術に関するプロジェクトも進行しています。
材質予測は、結晶粒径などの組織をまず予測し、それをもとに機械的性質を求めるのが一般的です。
圧延は変形が定常で単純化できるので、ひずみ・ひずみ速度・温度等を材料内で一様と仮定して予測式は導かれていますが、鍛造の場合には変形が非定常でひずみ等が大きく分布するので、取り扱いが単純ではありません。
しかし、塑性変形と熱との連成有限要素解析が実用段階になりつつある現在では、鍛造加工における材質予測精度も向上しています。
同様に鍛造後の焼入れ・焼戻しといった熱処理による材質変化および熱処理ひずみ(熱処理による寸法変化)の解析も可能になっています。
これらのプロセスモデリングにより材料流動や型への負荷だけを考えるのでなく、加工後の組織・機械的性質もねらいをつけた新たな鍛造の工程設計・プロセス設計手法が完成するものと思われます。
(2)熱間鍛造における材質予測
金属材料は、熱間温度領域で加工すると再結晶を生じ、新たな結晶が発生・成長します。
結晶には、加工中に発生する動的再結晶と加工後に現れる静的再結晶があります。
鋼の場合は一般の金属材料と異なりより複雑です。
鋼は再結晶後の冷却過程で変態を起こし、冷却速度によって種々の組織ができます。
したがって、鍛造後の組織予測にはそれぞれの現象を表現できるモデルの作成が必要です。
変形―温度連成有限要素解析にモデル式を組み込むことによって加工後の組織および機械的性質が計算できます。
(3)鍛造部品の熱処理後のひずみと組織の解析
鍛造品の機械的性質あるいは微細組織を好ましい状態に調整するために鍛造後に熱処理を行う場合があります。
炭素鋼では相変態を伴う焼入れ・焼戻しが代表的であり、材料の構造変化を伴うため熱処理ひずみや残留応力が発生し、良い条件を選ばないと製品品質・精度を損なう原因となります。
その予測のためには組織・温度・応力/ひずみを連成して解析する必要があります。